夏の王様(社会人五年目:七月)

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 最悪だ。最悪だ。  まさか職場連中の前で醜態を晒すなんてと羞恥で顔を上げられず、かといってここで背を向けるわけにもいかず、俯いたまま空いている椅子に腰を降ろすと、斜め前方から驚いたような声色が聞こえてきた。 「あれあれ~、なにそこ喧嘩? まあ喧嘩するほど仲がいいってね~」  あははと笑う青木、うるせーよ。 「喧嘩なんてしてないよ?」  普段通りの穏やかな物言いで青木を牽制し、俺の隣に座ったハルの存在を無視するように頬杖をつき反対方向へ顔をむけると、涼しい表情の伊勢さんと目があった。羞恥から目をそらそうとした時、伊勢さんは目を細め、ほんの少し口角をあげてから口を開いた。 「香取、俺と組むか」  は?  突然の振りに言葉が出ず、瞬きを三回繰り返したところで、俺よりも先に青木が声をあげた。 「い、伊勢さん何を言い出すんですかっ、パートナーは俺でしょ、俺!」 「今ならまだメンバー変更きくだろ」  しれっと言い放つ伊勢さんをポカンと見つめる俺とは対照的に、両手を振って大きくNGアピールをする青木。 「もう登録完了しちゃったし、大体何で突然香取なんですか、俺、球技得意ですよ!」 「去年のバレーボール大会で香取が上手かった事を思い出した」 「ええー!」  しれっと答える伊勢さんの言葉に白目をむく青木を少々不憫に思いながら、そうだったかと過去を振り返る。いや別に普通だったと思うけれども。やれやれと呆れた様子で溜息をつく万優さんとアヤカの姿が視界に映った。 「青木より香取のほうがいい。どうせ出るなら優勝目指したいしな」 「伊勢さんヒドイ!」  喚く青木を伊勢さんは華麗にスルーして、再び俺に涼しげな笑顔を向けた。 「小出くんと香取が良ければ、だけど」  ここでこっちに振るのかと突っ込みを入れたい気持ちを抑えつつ、とはいえ今の状況でハルと組む事を想像したら、伊勢さんと組む方がよっぽど楽だと安易に考えた俺は、ハルの方を振り向きもせずに、そうですねと頷いた。
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