夏の王様(社会人五年目:七月)

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 正月の出来事から七ヶ月経った今も、あの夜の恐怖を身体は忘れていない。今この瞬間だって、晃が目の前に居るだけで、手のひらに汗が滲む。今の自分には、昔のように無邪気に素を曝す事なんてどうしたって出来ないし、この先だってきっと想像出来ない。 (でも……)  けれど、この関係を修復出来るのなら、努力したい。  兄貴分としてそばに居てくれた晃を、どうしたって嫌いになれる筈もなくて、出来る事なら……戻れるなら、戻りたいと、願う自分が確かに居る。 「職場の奴ら向こういるし、戻るわ」  椅子を引き立ち上がりかけた時、晃の唇が小さく開き、呟くように俺の名前を呼んだ。 「省吾」  晃の右手に左手首を掴まれて、瞬時に記憶が蘇る。身体を拘束されて動けなくなる恐怖。全身が硬直して、毛穴から嫌な汗が吹き出した。駄目だ、触るなと、全神経が拒絶する。 「省吾」  再び名前を呼ばれた。でも今度は晃じゃない。  振り返ると、こちらに向かって歩いてくるハルの姿が視界に入った。  何でと口にするよりも先に、迎えにきたよとハルが口を開いた。  気付けば俺の手首を掴んでいた晃の指先は既に離れていて、無意識に息をつく。同時に、晃と元に戻るなんてやっぱり無理かもしれないと落胆した。おそらくはまだ顔を見る事すら早かったんだと、後悔の念が押し寄せる。 「よう、相変わらずの番犬ぶりだな。そう威嚇するなって」  晃は口元に笑みを浮かべながら椅子の背もたれにふんぞり返り、ハルに向かって言葉を投げかけた。それに対して凍りつくような視線を返すハルの様子を見て、じわりと冷や汗が浮かぶ。ハルの周りにだけ吹雪が見えるのは幻覚か。 「どうも」  いつもの王子スマイルなど想像もつかない冷酷な無表情で、挨拶とも言えない程度の挨拶を交わした後、ハルは俺に向き直り、ぐいと腕を掴んだ。 「もう皆集合してる」  もう一秒もここには居られない空気に押され、俺はもたつきながら晃に一言声をかけてその場を後にした。  俺の腕を掴んだままズンズンと歩くハルの歩調は早く、歩き辛い事この上ない。とはいえ腕を離せとも言い辛い空気感に、俺は渋々とハルの後ろを歩いた。 「ハル、おい……そんなに怒るなよ。晃が来てるっていうから、顔を見に行っただけだ」 「別に怒ってはいない」 「ふぅん、あっそ……」 「何で顔を見に行く必要があるんだ」 「は?」 「必要ないだろ」
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