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つい先程まで顔を合わせていた、晃の表情を思い出す。
握り締められた手首から伝わってきた晃の握力と、正面から俺を真っ直ぐに見つめる晃の瞳。ストレートに伝わってくる熱量に耐えきれず、先に目を逸らしたのは俺の方だった。
「省吾が晃に会いに行ったその行為は、相手の気持ちなんて少しも考えていない、ただの自己満足だ」
痛烈に言い放たれた一言は身体の奥深くに重く突き刺さり、羞恥と悔恨の念が身体の中をじわじわと寝食していく。俺を見据えるハルの表情は冷たくて、身体にズキンと痛みが走った。睨み返しても胸の痛みは誤魔化せない。
胸が痛い。
「……なんだよ、そんなに俺が悪いのか」
「省吾が無自覚過ぎると指摘しただけだ。言い方がきつかったのなら謝る」
言いながら俺の傍まで戻ってきたハルに腕を掴まれかけた瞬間、その手を払いのけて一歩下がっていた。
「偉そうな事言うな、自分はセフレだった男と平気な顔して仲良く一緒に働いてるくせに、こっちのやる事に口出ししてくんじゃねぇよ」
驚いた表情で動きを止めたハルの顔を睨みながらも、途端に後悔の波が押し寄せる。
八つ当たりだ。こんな事言うつもりじゃなかった。
一生知らないふりでいるつもりだった気持ちを口に出してしまった瞬間、それは形となってまるで熱にあてられたチョコレートのかけらみたいに、ドロドロと端から溶けていく。
「省……」
「触るな」
「待て、何を……」
再び掴まれた腕を振り払おうとした時、突然背後から明るい声が投げかけれた。
「あーっいたいたハル!」
振り返ると同じ年程の男が数人、こちらに向かって歩いてくる。その中で一際元気そうな男が、日に焼けた腕を振り上げながら駆け寄ってきた。
「ミツルもお前も携帯繋がらないし、会えないかと思った! 会場広いな、会えてよかったわー」
目の前の俺をすり抜けてハルの肩に思い切り腕を回し、嬉しそうに顔を近づける男に一瞬呆気にとられ、ミツルという単語から、地元の仲間かとぼんやり想像しながら、さっきまでの険しい表情を一瞬で笑顔にかえて応えているハルを見上げる。
なんだこいつは。まるで役者か。
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