夏の王様(社会人五年目:七月)

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「洋太、来てたのか」 「ミツルに誘われてさ、てかお前が誘えよ、最近ちっともこっち帰って来ないし」 「仕事も忙しくてさ……洋太、紹介するよ、一緒に暮らしている香取……」  ハルの言葉でやっと俺のほうへ顔を向けた男は、何の悪意もなさそうな表情で、ああと声を上げた。 「噂の同居人さん? どうも~ハルがお世話になってます、俺はハルの大親友で花谷洋太、よろしく!」  人好きしそうな笑顔で右手を差し出され、それに返すのが礼儀と理解しながらも、俺は敢えてそれを無視した。  噂の同居人?噂って何だ。大親友?知るか。ハルがお世話になってます?お前のものじゃあるまいし。  男の台詞にも、ハルの肩に回された腕にも、男に対して素の笑顔を見せているハルにも、ムカムカしてもう一秒でもこの場にいたくない。  そうこうしているうちに他の仲間達もやってきて周りを囲まれ、面倒になる前にと俺は黙ってその輪から抜け出した。 「ありゃ、同居人さん、ご機嫌斜め?」  のほほんとした男の声と、ゴメンと謝るハルの声が背後から聞こえ、ますます苛立ちが込み上げてたまらなくなった俺は、ハルを残して足早にその場を去った。  今すぐにでもここから離れたい。出来ればこのまま全部投げ出して家に帰って一人になりたい。そんな事は出来ないとわかっているだけに胸のムカつきは治まるどころか増すばかりで、頭痛までしてきた。 (くっそ、最悪だ)  もうすぐ皆がいるテーブルへたどり着くという所でハルに追いつかれ、肩を掴まれたその手を払いのける。 「省吾、」 「触るな、今お前と口を聞きたくない」 「わかった、後で話し合おう」 「別に話し合う事なんてない」 「急に拗ねて、論点もずれて、まるで子供だ」 「誰が子供だっ!」  思わず声を上げてから周囲の視線に気付き、慌ててハルから顔を背けた所で、すぐ目の先のテーブルで寛いでいた職場連中からも一斉に視線を向けられていると気付き、頭から足の先まで熱くなった。
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