覚醒

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 一言で云うならば、覚醒とでも呼べば良いのであろう。  十歳。  自分がいた前の世界では、未だ小学生で、義務教育といったモノがあり、その中でも小学四年生となる十歳といえば、高学年となる少し手前で、速いものはもう利発そうな雰囲気を醸し出していたものだ、と少年は考えた。  午前は海水で浸っていた地面は、昼になると引き潮にて姿を表した。  逃げ遅れた海水が、小さな窪地に点在していて、少年はそこを鏡代わりにしていた。    使い古された継ぎ接ぎの服に、見窄らしい泥だらけの髪は、見ているだけで少年を不快にさせる。    あどけなさの残るものの、二重瞼と血色の良いふっくらした唇。  林檎のやうな頬は、まるで雲のやうに柔らかである  細く短い黒髪は、神話の狼のようだね、と周囲に云わせ、少年は欣喜雀躍としたのをはっきりと覚えていた。  覚えていた?  いや、語弊がある、のかもしれない。  なんせ少年は覚醒してしまったのだ。    潮風の生臭い匂いが、少年は好きだった。  いつも町に少しばかりの肉を売りに行った帰りは、驢馬を繋いでじっと海を見つめる。  遠くで魚が跳ねるのが好きで、波が一際強く打つのも、少年は好きだった。
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