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懐かしむように、眩しそうに目を細める高遠くんを直視できなくて、誤魔化すように話題を変えた。
「あ、そう言えばさっき、すごい顔して雑誌見てたけど、どうしたの?」
「え……?ああ……そんな顔してたかな……」
苦笑いして、高遠くんが私の前に雑誌を差し出した。
「これ。読んでたの」
「あ……」
さっきちらっと見たときには気が付かなかったけど、表紙を目の前に出され、気がつく。
それはいわゆる業界誌で、あまり一般の人が読むようなジャンルの雑誌ではない。大型書店の業界誌コーナーとかでないと売っていないだろう。
「新幹線に乗る前に見つけてね、今日発売って教えてくれたらいいのに」
若干の皮肉を込めてだろう、高遠くんが意地悪そうに微笑む。
「いやそんな……大した記事じゃないですし……」
「いやいやいや……」
芝居がかったように大げさに首を横に振りながら、高遠くんがパラパラと雑誌をめくり、あるページで手を止めた。
それは、建築やインテリアデザインの情報を発信する雑誌で、毎月若手のデザイナーがピックアップされ紹介される特集コーナー。
『新しい風は、どこまで吹くのか ”四宮智秋”に聞く』
そんな副題をさらっと背負って、四宮さんが事務所のデスクに座っている写真が大きく1P目いっぱいに使われている。
いや、そんなことはどうでもいい。どうでもよくないけど、四宮さんがそうやって業界誌に載るくらい、珍しい話ではない。なんならもっとメジャーなカルチャー雑誌にだって出ていることはある。
問題はその後半。最近の四宮さんの仕事を紹介するくだりで、なぜか……
四宮さんと私の対談記事が載っている。並んで撮った写真も。
「もちろん我社のプロジェクトについても紹介されていますからね、大した記事じゃないとは言えませんよ。絶好のアピール機会ですから」
わざとらしくニッコリと微笑む高遠くん。
「……なおさら、発売日は百も承知ですよね、……御社の担当高遠さんなんですから……」
あまりの恥ずかしさで、俯きすぎておでこがゴンとテーブルにくっついた。
今回の企画は、全て四宮さんが言い出したことだ。
全力で辞退を懇願した私に、しかし上原さんはこう言い放った。
『そろそろ自分が矢面に立って、会社アピールしてこい』
それを言われてしまうと、何も言えない。コンペで取れた共同プロジェクトの話もする予定だったし。こうなることも予想済みなのかと思ったら、四宮さんが一層恨めしかった。
彼曰く『仕返し』なんだそうだ。
根に持っていらっしゃる。
そうね……恐れ多くも私、こんなすごい人に騙し討ちみたいなことしたもんね……
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