「これが私の答えです」

41/58
6276人が本棚に入れています
本棚に追加
/465ページ
懐かしむように、眩しそうに目を細める高遠くんを直視できなくて、誤魔化すように話題を変えた。 「あ、そう言えばさっき、すごい顔して雑誌見てたけど、どうしたの?」 「え……?ああ……そんな顔してたかな……」 苦笑いして、高遠くんが私の前に雑誌を差し出した。 「これ。読んでたの」 「あ……」 さっきちらっと見たときには気が付かなかったけど、表紙を目の前に出され、気がつく。 それはいわゆる業界誌で、あまり一般の人が読むようなジャンルの雑誌ではない。大型書店の業界誌コーナーとかでないと売っていないだろう。 「新幹線に乗る前に見つけてね、今日発売って教えてくれたらいいのに」 若干の皮肉を込めてだろう、高遠くんが意地悪そうに微笑む。 「いやそんな……大した記事じゃないですし……」 「いやいやいや……」 芝居がかったように大げさに首を横に振りながら、高遠くんがパラパラと雑誌をめくり、あるページで手を止めた。 それは、建築やインテリアデザインの情報を発信する雑誌で、毎月若手のデザイナーがピックアップされ紹介される特集コーナー。 『新しい風は、どこまで吹くのか ”四宮智秋”に聞く』 そんな副題をさらっと背負って、四宮さんが事務所のデスクに座っている写真が大きく1P目いっぱいに使われている。 いや、そんなことはどうでもいい。どうでもよくないけど、四宮さんがそうやって業界誌に載るくらい、珍しい話ではない。なんならもっとメジャーなカルチャー雑誌にだって出ていることはある。 問題はその後半。最近の四宮さんの仕事を紹介するくだりで、なぜか…… 四宮さんと私の対談記事が載っている。並んで撮った写真も。 「もちろん我社のプロジェクトについても紹介されていますからね、大した記事じゃないとは言えませんよ。絶好のアピール機会ですから」 わざとらしくニッコリと微笑む高遠くん。 「……なおさら、発売日は百も承知ですよね、……御社の担当高遠さんなんですから……」 あまりの恥ずかしさで、俯きすぎておでこがゴンとテーブルにくっついた。 今回の企画は、全て四宮さんが言い出したことだ。 全力で辞退を懇願した私に、しかし上原さんはこう言い放った。 『そろそろ自分が矢面に立って、会社アピールしてこい』 それを言われてしまうと、何も言えない。コンペで取れた共同プロジェクトの話もする予定だったし。こうなることも予想済みなのかと思ったら、四宮さんが一層恨めしかった。 彼曰く『仕返し』なんだそうだ。 根に持っていらっしゃる。 そうね……恐れ多くも私、こんなすごい人に騙し討ちみたいなことしたもんね……
/465ページ

最初のコメントを投稿しよう!