「それじゃあ…おやすみ」

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「すみません、結局連れて来てもらってしまって」 新幹線の改札口。 ここまで来たらついでだから、と結局ギリギリまで来てもらってしまった。 「いや、別に大丈夫だよ。 大して変わらないから。 おかげで、こうして篠村さんとお話できたしさ」 他意の感じられない自然な態度に、感心するばかりだ。 成功した人って、やっぱり気持ちにも余裕があるんだな。 でも実際はものすごく忙しいに違いないはずで、あまり甘え過ぎてもいけないだろう。 「じゃあ、失礼します。 ありがとうございました」 頭を下げると、なぜか、一瞬沈黙が降りた。 そして、 「篠村さんてさぁ…」 急に、先程迄とはワントーン低い声が、頭上から降ってきた。 ………? 違和感を感じ恐る恐る顔を上げると、 目の前の四宮さんは顎に手を当て考えるような表情をしていたが、またすぐ元の笑顔になった。 「普通だよね」 「はい…?」 一瞬意味が分からず、思わず聞き返してしまった後で、直前のセリフにかかる形容だと気付いた。 って、 え。 「あの真山さんが抜擢したって聞いて、どんな子が来るんだろうと思っててさ。 もっと個性が強くて自信に満ちたバイタリティのある人を想像してたんだけど。 ものすごく、普通だね。 自信なさげだし。 よくよく話してみてもそんな感じだしさ。 そんなんで大丈夫なの? 『この僕』が相手なのに。 バーターだったとか言われたら、君はせっかくのキャリアを潰すし、『hito + cafe』の新事業も不発だって世間は評価するよ? あ、ごめん、新幹線の時間そろそろじゃないの? 気を付けてね」 そうやって笑顔でポンと肩を叩かれたが、 ……二の句が、継げなかった。
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