「秘密にしてもらえますか?」

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「あははははは」 休日のオフィスに、遠慮無しの笑い声が響きわたる。 「ちょっと樫くん! 今のどう考えても笑うとこじゃないでしょ?」 「えー、じゃあどう言えばいいんですか?」 「え…、まあ…えーと、 『それはお気の毒に…』とか…」 逆に質問され、若干たじろぎながらそう言うと、真後ろの席に座る後輩、樫本くんはちょっと首を傾げ、持っていたコーヒーカップをデスクに置く。 それから私の方に向き直り、 「うーわー、それはお気の毒にー」 と、1ミリたりともそんなこと思ってなさそうな顔で言った。 「………もういい」 君に期待した私がバカだった。 なによ、もう。 一緒に怒ってくれると思ったのに。 出張の翌日、出社するなり私は、先に来ていた樫くんを捕まえて、道中での出来事を一気にしゃべった。 樫くんは、この夏に工事が行われた『hito + cafe』11号店の時、プロジェクトを一緒に担当してくれたただ1人のスタッフだ。 会社としては旨味がなく、時間と人件費をかけられないプロジェクトだとされていたあの時、彼の存在は非常に頼もしかった。 まあちょっとお調子者だけど。
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