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「は、はい……あの、おめでとうございます!」
「はは、うん、夏月ちゃんも。おめでとう」
あ、そうか。そうなるのか……
「あ、ヤバい。今頃になって鳥肌が……」
「ははっ」
実感が今頃やってくるなんて。
ドキドキしつつ、周りの人達に何度も会釈をし、廊下に出た。
「ええと、本当にありがとうございました。四宮さんのおかげです」
「君たちが頑張ったからこそだと思うけどね。でも色々感慨深いよ」
しみじみと言ってくれているのが伝わってきて、鼻の奥がツンとなった。
「そもそも、夏月ちゃんがあのスケッチブック返してくれなかったら、コンペは断っていたと思うし」
「そうなんですか!?」
出そうになっていた涙が、驚きで引っ込んでしまった。
「言ったでしょ、仕事パンパンだって。スタッフが居るとは言え僕の脳は一つしか無いから、作業そのものよりはアイディアを出さなきゃいけないようなコンペ参加となると、正直限界だった」
確かに、断るかもしれない、と当初は言っていた気がする。正直今回だって、ただでさえ忙しいところを私達と一緒に動いたのだ。相当スケジュールに無理があったはずだ。
「それどころか、元々『hito+cafe』のプロジェクト依頼を請けるのすら、最初は渋ってたからなぁ」
「聞いてます。当初相当真山さんが粘ったって」
あはは、と可笑しそうな声が聞こえてくる。
「そうだよ、あの人、本当にしつこかった。
最後には実桜まで引っ張り出して」
電話の向こうで、苦笑いしている顔が見えるような気がした。
「あ、いや」
ふと、四宮さんの声の調子が変わった。
「違うな。一番最後までしつこかったのは彼だ」
「……誰ですか?」
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