「これが私の答えです」

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首を傾げていると、四宮さんがぶはっと吹き出した。 「彼だよ、キミの彼氏」 「えっ、高遠くん?」 つい勢いで仕事の時の「さん」付けじゃない呼び方をしてしまった。 は、恥ずかしい…… けれど四宮さんは、それには気も留めていない様子で続ける。 「そうそう、高遠くん。 実桜が出てこようが今をときめく人気チェーンの社長が頭を下げようが、無理なものは無理、と突っぱねていたんだよ僕は。 けど、彼がねぇ…」 ニヤニヤしているであろう四宮さんが、言葉を切った。 「ちょ、もったいぶらないでくださいよ。何があったんですか?」 最近真剣な局面が多かったので、四宮さんの態度にイラッとする場面は結構久しぶりだ。 「……プロジェクトのオファーを請けるかの最終決断の条件について、前話したの覚えてる?」 急に四宮さんの声から、からかうような調子が消えた。 「あ、はい。私が担当した忍くんのお店……11号店を実際見て、私の程度を知ってから、新店舗の設計を請けるか判断する、って……」 程度を見るなんて、そんな偉そうなもんじゃないよ、と四宮さんが小さく笑う。 「協力していくにあたって、気が合いそうかどうか……くらいの気持ちだったんだよね。 それがしっくりこなかったら、わざわざしんどいスケジュールを無理してまでできるような物件じゃない」 「それは……わかります」 そもそもデザインなんて、正解があるものじゃない。もちろん使い勝手や安全性に責任を持つのがデザイナー、設計者のいちばん大事な役割だけど、ぱっと見で分かるのは表面的な見た目で、それは見た人の好みによって善し悪しが大きく変わる。 センスや好みがかけ離れていたら、例え一緒の会社の人とであっても、協業するのは正直苦痛なこともある。 「でね、もうお断りの最終返答をしようと思った矢先に、彼が……高遠くんがうちの事務所に単身来て言ったんだよ。 今まさにオープンしようとしている11号店は、プロジェクトに関わる人達が本当に情熱をかけて作り上げた空間だから、それを見てから判断してくれませんかって。 特に、デザイナーの『篠村さん』は四宮さんの大ファンで、本当に真剣に仕事に向き合う人だから、きっと四宮さんに損はさせませんから、一度でいいから店を見に来てくれないかってね」 「うそ……」 「……嘘じゃないよ」 四宮さんの声は、びっくりするほど優しい。
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