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最初に高遠くんにその話を聞いたときも、四宮さんから聞いたときも、私は勘違いしていた。
てっきり四宮さん側から提案した条件だと思っていたから。
----最終的にオファーを受けるかどうかの決断は、それが条件だったからね----
----色々条件もあったけど、まあ結果的に請けてはもらえることになってさ--
--
----もう一つの新店舗のデザインを担当する相棒が…つまり君のことだけど、どんな空間をつくるか実際見せてもらってから判断するっていう条件----
「高遠くん……どんだけハードル上げてくれてたの……」
照れ隠しに、そんな言葉が出てしまう。
「いやいや、良かったよ。あの時彼の挑戦を受けて」
----とりあえず請けてみようかな、という気にはなったんだよね。
安心感はないけど、面白いことは起きそうだな、って----
「そのおかげで……ん?何?」
四宮さんが電話の向こうで、誰かに話しかけられたようだった。「分かった。ちょっと待っててもらって」と遠くに向かって言っている声が聞こえる。
「ごめん、来客みたいだ」
「あ……、いえ、こちらこそお忙しいところわざわざお電話ありがとうございました」
「うん、じゃあ、次は『hito+cafe』の打ち合わせでね」
「はい、あの、四宮さん…」
ん?と四宮さんが聞き返してきたが、慌てて頭を振った。向こうには見えないけど。
「いえ、ではまたよろしくお願いします」
「うん、また」
そう言って、通話が切れた。
今のって……気のせいじゃないよね。
窓から外を見下ろす。
会社の前の街路樹の桜が、いつの間にか満開になっているのに気づいた。
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