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「上原さん、
最近絶対おかしいですって、篠村さん」
篠村さんが珍しくいなかった午後(っていっても土曜日だけど)、俺は上原さんのデスクの前に行き、周りに聞こえない程度の声の大きさで話しかけた。
「篠村の何がおかしいって?」
上原さんは相変わらず目線は上げず、キーボードの上を忙しなく動く手はそのままで、口と耳だけなんとか貸してくれようとしているようだ。
部署イチ、いやひょっとしたら社で一番忙しい人かもしれない。噂では、来季には最年少で役員に昇進するのではと言われてるのも頷けるくらいの、「有能」って文字を背後に背負ってそうな人だ。
マウスのかたわらにコンビニプリンがあるのは、これもいつもどおりだ。どうでもいいけどそれ、俺が冷蔵庫でキープ知てたやつじゃないか?
「なんか……挙動不審ていうか……」
「それは……いつもどおりだろ」
「ま、そーなんすけど」
秒で頷いちゃう辺り、俺もヒドイ後輩だなとは思う。
「なんていうか……ぼーっと考え事をしてる時が多いっていうか」
「それも……」
「はいはい、いつもどおりですよね」
どうでもいいけど、さっきから生返事過ぎないか?
手を動かしながらとは言え、いつものこの人の反応から考えると薄いっていうか、違和感を覚える。
「四宮さん」
短くその名前を告げると、それまで絶え間なく聞こえていたキーボードを叩く音がピタリと止まった。
「……と一緒に仕事始めてからじゃないですかね。あの人がおかしいの」
「そうか?そりゃ有名なセンセイと一緒にやりゃあ、苦労するのはいつものことだろ」
「そりゃまあ、普段遣わないでいいような気を遣ったり、余計な作業が増えたりしますけど。でもそんなの四宮さんじゃなくても似たような状況はこれまでありましたけどね。
でもなんていうか……今回はちょっと違うような」
「ふぅん?……まあ長いこと一番近くにいるお前が見てそんな気がするならそうなのかもしれないな」
再び鳴り出すキーボード。
上原さんの、含みのある言い方に、ちょっとイラッとする。
傍で聞く分には、ただ俺が長年篠村さんのすぐ後ろの席に座ってる事を指しているようしか聞こえないだろうが。
いつだったか二人で終電を逃して朝まで飲んだ時に、調子に乗って喋りすぎてしまったことを今は後悔している。
何より、あきらかに何か思い当たるフシがあるのに、それについて言及するのを避けているような物言いがムカつく。
「上原さん、この際言わせてもらいますけどね」
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