「これが私の答えです」

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久しぶりに訪れた晴海さんのお店は、相変わらず賑わっていた。 ショーケースの前で熱心にケーキを選ぶお客さんと晴海さんが談笑している風景は、この店が皆に愛されている理由そのものを物語っている。 「あ、夏月ちゃんいらっしゃい。由雪、奥にいるよ」 「こんにちは、ありがとうございます」 「あ、夏月ちゃん、久しぶり~!」 晴海さん、悠里さんにペコリと頭を下げ、店の奥に進んでいく。 テラスに出ると、一番突端のテーブル席に私服姿の高遠くんが座っているのが見えた。 うわぁ……かっこいい…… 今日の高遠くんは、チャコールグレイの綿ジャケット、白いカジュアルなシャツにベージュのパンツを履いているラフなスタイル。紅茶を飲みながら雑誌に視線を落とす姿がなんとも絵になる。隣のテーブルの女子グループが背中越しにチラチラと見ているのも無理もない。 あれ?ちょっと表情が不機嫌そうだけど……。 「高遠くん、ゴメンね。待たせて」 確かに、約束の時間を若干過ぎてしまっている。 私の声に気がついた高遠くんが、顔を上げた。 「ん、いいや。そんなことないよ。おつかれさま。会社から来たの?」 その顔は、いつも通り爽やかで優しげだ。 「うん、昨日打ち合わせで言われたところどうしてもすぐ直したくて。でももう終わったから大丈夫」 「ごめん、無理させたかな」 「ううん、私も絶対そのほうがいいと思ったから、勢いで作業しちゃった!」 笑いながら椅子に座ると、同じ目線になった高遠くんが苦笑いを浮かべていた。 「燃えてるなぁ」 「いやいや、高遠さんには敵いません」 前日は『hito+cafe』13号店の現場打ち合わせ、今日は四宮さんの方の12号店の打ち合わせ。私は昨日一足早く先に東京に帰って来ていたが、高遠くんは今日打ち合わせが終わったら直接向かうということで待ち合わせをしていた。注文を取りに来た悠里さんに、本日のケーキセットを注文して、座り直す。 「陽がだいぶ長くなったなぁ」 「本当だね、でもこの季節、過ごしやすくて好きかも」 晴海さんのこのお店、外のテラス席は船の甲板をイメージして作られているらしく、床にはチーク材のフローリングが広がっている。手すりや所々に置かれたオブジェもそれぞれ船上を彷彿とさせるようなデザインで、建物が川沿いに立っているため、吹き抜ける風が一層気持ちよく感じられた。 「うん……なんか再会したばかりの頃を思い出すよね」
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