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顔をちょっと上げて、誌面を半眼で眺める。
インタビューと撮影の時いろいろ説明を受けたけど、テンパりすぎてほとんど説明を聞いていなかったので、最終的にどういう形で載るのかは把握していなかった。
でもどうして、さっき高遠くんはこれを見て不機嫌そうだったんだろう。
「高遠くん……?」
不思議に思って目線だけで見上げると、高遠くんは頬杖をつき、さっきと同じような顔をしていた。
「ちょっと…いや、めちゃくちゃ妬ける」
「え……?」
一瞬、予想もしなかった言葉が出てきて、びっくりして固まった。
その私を高遠くんが珍しく拗ねたような目で見返す。
「この記事見るとさ、何ていうかもう二人は仕事上のパートナーっていうか、もう息ピッタリって感じじゃない?
実際業界の中ではそういう風に認識されるだろうし」
「ちょ、ちょっと待って。そんな訳無いでしょ。たかが1つか2つの物件を一緒にやることになっただけだよ。しかも私は社員その1だし!大げさだよ」
「そうかな。少なくともこの記事の書き方だと、皆俺と同じような印象を受けるんんじゃないかな。『これからのお二人の作品に期待してます』みたいに書いてあるし」
「えー……」
ざっとした内容については説明を受けていたが、どういうスタンスで紹介するかまではさすがに聞いていない。事実しか言っていなくても語り口によって印象が変わるのは、メディアの恐ろしいところだ。
手元に雑誌を引き寄せて内容を読んでみる。でもあくまで読者の少ない業界誌だし、高遠くんの言うほどの大げさな話ではないような気が……私の主観のせいかもしれないけど。
「私はそうは思わないけどな……」
「……俺が焦ってるだけかもしれないけどさ、自信ないから」
え……?
高遠くんがふいっと横を向いた。
少し傾いてき始めた陽の光が、彼の横顔をほんのりと赤く照らす。
彼の目線の先を追うと、ちょうど悠里さんがトレーを持って店内から出てきたところだった。
「お待たせしましたー!
はい、本日のケーキセットね。ちょっとサービスしてるけど。ごゆっくり~」
「え?わ、ありがとうございます!かわいい……」
目の前に置かれたプレートを見ると、
ミニサイズのスイーツがいくつも並んでいる。
スイーツバイキングのサイズだ。色々な味が楽しめそうだ。
と、その中央に一つ目を引くものがあった。
その形はいつものこのお店に出てくるものとは違って……
チョコレートでできた、籠のような形の丸い物体。
蓋と、容れ物に分かれそうなフォルム。
これ、どこかで……
高遠くんをちらっとみると、まだ先程と同じ様に横を向いていた。
あ、思い出した。
ちょうど一年前、高遠くんと初めてこのお店に来た時、バースデーケーキとして晴海さんが作ってくれたものだ。
ん……?
「これ、ひょっとして……」
呆然として呟くと、高遠くんが横を向いたまま視線だけでこちらを見ていた。
「ちょっと早いけど。誕生日プレゼント」
ささやくような小さな声で高遠くんがそう言った。
「高遠くん……」
確かに、誕生日まではまだ日がある。でも思いもしなかったところにサプライズで祝ってもらえて、こんなに嬉しいことはない。
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