第5話

9

「よろしい。1529年５月、スレイマン大帝は大軍を率いて、オーストリアに進軍した。推定だが歩兵12万人、輸送用ラクダ２万頭、それに攻城用の大砲多数という大戦力だ。途中にあるハンガリーの都市をつぎつぎと陥落させ、オーストリアの首都ウィーンに迫った。この時期のウィーンの状況を誰か？　そうだな、東園寺崋山」

　カザンの顔は赤くなったり、青くなったりした。いそがしいやつだ。

「えーっと、16世紀のハプスブルグ家は、えーっと落ち目でしたが、えーっと」

　月岡教官が自分のコンピュータにチェックをいれた。カザン、減点１。

「では、スリラン・コーデイム」

　３組第7班は外地人の生徒を集めたチームだった。日乃元（ひのもと）国が進駐する友好的な占領国出身だ。スリランの肌は浅黒く、格闘術の授業では、強力な蹴りで好成績を収めている。スリランはウルルク王国からの亡命者だった。タツオの父の軍勢が玉砕し首都が陥落してから、あの国は南北に分裂し、それぞれ氾（はん）帝国とエウロペ連合に占領されている。