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「確か神聖ローマ帝国はフランスと戦っていました。皇帝にも余裕がなく、援軍を送ることができなかった。ウィーンはオスマン軍に対して、圧倒的に不利な戦力しかもっていませんでした」  月岡教官がパネルにふれると、ウィーンの地形図が鮮やかにアリーナに浮かび上がった。ドナウ川の流れに沿って広がるウィーンの城壁を、オスマン軍が包囲している。ドナウ川の水面もオスマンの船で占拠されていた。多くの旗がゆらめき、アリのように兵士がうごめいている。 「よろしい、スリラン。オーストリア側の戦力は、歩兵が1万6千人、騎兵600人、皇帝から送られた優秀なスペインの狙撃兵700人だ。オスマンの大軍に比較すれば、圧倒的に不利といえる」  3Dのシミュレータ映像の大砲が、音もなく火を噴(ふ)いた。城壁が崩れ、炎と土煙があがる。 「完全に包囲され、300の大砲が間断なく砲撃してくる。オスマン軍はハンガリー、セルビア、ドイツとどの国の軍と戦っても、連戦連勝。兵の士気は最高だった。スレイマン大帝は城壁内に突入した者は貴族に召し上げるという命令までだしている」
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