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 功名と血に飢えた12万人の兵。タツオはぼんやりと考えていた。5万人の部下を擁(よう)して、ウルルクの首都に立てこもった父・靖雄(やすお)の気もちは、あの守備戦のときどうだったのだろうか。圧倒的な戦力に完全包囲され、集中攻撃を受ける。城壁のなかの人々を思うと、胸が苦しくなった。  月岡教官の講義は続いている。 「オスマン軍の包囲がなったのは9月23日。不利なはずのオーストリア軍はしぶとく勇敢に戦い、そのまま一ヵ月近く首都を守り続けた。10月17日には初雪が降り、オスマン軍は敗走して総崩れになった。温かい土地に生まれた兵は寒さが苦手だったのだ。首都防衛軍は7倍の兵力の敵を打ち破り、いかに勝利を収めたか。今日の授業では、それを詳細に学んでいこう」  同じ包囲戦でも、ウィーンは勝ち、ウルルクは破れて滅んだ。戦争とはなんと残酷で明快なのだろう。タツオは自分のパソコンにひそかにウルルク首都包囲戦と打ちこんでみた。最高性能の戦闘シミュレータには、あの攻防はどんなふうに記録されているのだろうか。
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