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 夕食が終わる午後7時から就寝時間の10時までの3時間が、生徒にとっては、数すくない自由を楽しめる貴重なときだった。もっともほとんどの生徒は自習のために、この時間をつかっている。養成高校での順位は、卒業して軍に入ってからも一生ついてまわる。一番でもいい成績を収めることが、そのまま昇進に直結しているのだ。生徒の多くが目の色を変えて日々勉強していた。  だが、タツオの班はすこし毛色が違っていた。まず勉強などまるでしていないように見えて、つねにトップの菱川浄児(じょうじ)がいる。勉強嫌いだが、なぜか要領がよくナンパな鳥居国芳(とりいくによし)がいる。無口でなにを考えているか、よくわからないがっちりした体格の谷照貞(たにてるさだ)がいる。落ちこぼれの文化進駐官志望のタツオとあわせて、誰ひとり軍部での立身出世を望んでいないようだった。  その夜の自由時間も、クニが4人部屋でさわいでいた。 「おー、みんなで談話室にいこうぜ。姫と話をつけて、今夜いっしょに勉強することになってるから」
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