46人が本棚に入れています
本棚に追加
突然、緑色の仮面が反転した。
鮮やかな蛍光カラーの裏はどす黒い、暗緑色の苔に覆われていて微妙に、蠢(うご)めいている。
夥(おびただ)しい数の透明で光り輝いている触手が、ゆらゆら揺れながら近づいてくる。
少女と仮面の空間は、益々輝きを増していった。
『イヤー来ないでぇ』
『早くぅ来て~』
伸一の脳に少女の混濁した意識が突然流れこんできた。
伸一は点欠を解こうと丹田(下腹部)に気を集めようとした瞬間、眼前に蒼い光球が出現した。
光球が輝きをますと共に意識が遠のいていく。
覚醒は瞬時であった。
伸一は痺れたような感覚で辺りをゆっくりと見回す。
少し開けられた、左側の窓の黄・緑・黒の極彩色の厚手のカーテンが風に揺れている。
微かに、雨の匂いと街のざわめきを運んできた湿っぽい風が伸一の頬を撫でる。
風に揺れて、剥き出しの冷たい感触のコンクリートの上を、微妙に蠢めく極彩色のカーテンは、まるで巨大な芋虫を連想させる。
伸一は自己の内力(体内を流通する気が生みだす力)が弱まっているのを感じた。
左手の関節の少し下の辺りに気を集中する。
最初のコメントを投稿しよう!