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私は呼吸を乱しながら階段を上がっていた。このようなことになるぐらいなら、日頃から運動をしておけば良かったと内心では後悔していた。後悔したところで、どうしようもないと分かっていながらも。そもそも、日頃の運動でどうにかなるという話でもない。
「ハァ・・・ハァ・・・」
一段、一段、階段を上る度に足は重くなり先に進むのが辛くなる。時々、目線を上げ階段の先を見ていたが、今では余計に疲れるのでやめている。目線の先に階段の終わりがあるのならば、疲れなど忘れて一気に駆け上がっていたことだろう。だが、その階段の終わりは一向に見える気配がない。だから、目線を上げるのは止めた。
もう何時間も階段を上り続けているだろうか。
三時間?
十二時間?
二十四時間?
もっとか。そもそも、私にはすでに時間の感覚などなかった。時間という概念を必要としていないからだ。
死後の世界にとって生きていた頃に使っていた概念など無用の長物にすぎない。
私は数時間前に死んだ。原因は単純。横断歩道のない道路を無理をして渡ろうとしてトラックに轢かれた。即死だった。天に昇る頃には、救急車が駆けつけズタボロになった私の肉体を回収していくのが見えた。一瞬の出来事だったので、痛みを伴わず死ねたことは私にとって幸福なことであった。死の痛みと苦しみは想像もしたくない。
ただ、一つだけ問題があった。それは、私はこのまま、天国に行けるものだとばかり思っていた。ところが、私が行き着いた場所は白く上下に伸びる階段だった。見上げれば、明るい光りと雲に包まれた神秘的な場所へと階段が続いている。見下ろせば、黒い霧と赤い霧が混じり合ったような不気味な場所へと階段が続いている。上下の階段の長さは違っていて、神秘的な場所へと続く階段の方が若干長く私には感じられた。
(どうして、私はこんなところにいるのだ)
三途の川でもない異様な場所に私は戸惑った。ここが、あの世だというのならば、あまりにも殺風景で寂しすぎる。何より意味が分からなかった。この長い階段には何の意味があるというのか。
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