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「立ち止まって休むのは構いませんが、決して座って休もうとしないでください」
座って休むな。どういうことだ。
私は天使に質問を投げつけたが、答えることはなかった。天使は一方的なことばかりを私に伝えて、自分はさっさと他の人のところに行ってしまった。
「おい!待て!」
天使を呼び止めようとしたが、もう遅い。私は一人、階段に取り残されてしまった。振り返れば、地獄があるというのが見える。とても、近いとはいえ、そちらに向かう気にはなれない。私は階段から落ちないように注意しながら、上る方を選んだ。
あれから、随分と階段を上ったものだ。おそらく、生涯賭けて上る階段の段数をすでに超えたことだろう。正直なことをいうと、死んだというのに、どうして、こうも疲労を抱えるのか不思議だった。死んだら痛みも苦しみもないのではないか。臨死体験した連中の話などあてにならない。
唯一の救いは、振り返れば、地獄が随分と遠くに見下ろせるようになったことぐらいだろうか。確実に地獄から遠ざかっていると現状は私に気力を振り絞らせてくれる。天国まで、あと残りは何段あるのだろうか。気力を振り絞り、階段を上れるが限界も近い。立って、休んでいいと言われたが、立ったままの姿勢で疲れがとれるとは思えない。階段の一段、一段の高さは自分が腰掛けるのに丁度いい高さをしていた。
私は階段に手を着き呼吸を整えながら、周囲を見渡した。誰もいない。天使は他の亡者の所に行ったきり戻ってこない。
「誰も見ていないならいいか・・・」
私は鬼の居ぬ間ならぬ、天使の居ぬ間に少しでも休憩した方がいいと思い階段に腰掛けた。
その直後、私は妙な揺れを感じた。
「な、何だ?」
階段を見ると、私か腰掛けた場所から階段の板が歪み初めていた。慌てて立ち上がったが、もう遅い階段は、一挙に支えを失ったように崩れ始めた。
「やばい!」
崩れ始めた階段から落ちたくなかった私は大急ぎで残りの階段を駆け上った。身体の疲れなど気にも止めず。ただ、落ちたくない一心で必死になって階段を駆け上った。
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