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そんな私の些細な抵抗も虚しく、映画のように間に合うはずもなく数十段を駆け上った時、足下の階段は完全に崩れた。
私の身体は何かに吸い寄せられるように下へと落ちた。何かに捕まろうとしても掴めるものはなく、ただ下に落ちていくだ。
「あーあ。あれほど言ったのに。階段に座ってしまいましたね」
どこからか、天使の呆れた声が聞こえた。どういうことなんだ。説明をしろ。
「今、人類は多くなりすぎて、この階段による選別も追いつかなくなってきているのです。一人、一人の階段をその都度、造ったりしたら間に合いませんからね。ですから、今では間に合わせの材料で簡単な階段を造っているのです。上る分には何ら支障はないのですが、腰掛けると崩れてしまうらしく。腰掛けないように注意していたのですが時々、腰掛けてしまう人や足場を踏み外して落ちてしまう人が後をたちません」
そんな。階段が即席だなんて。お前達の怠慢ではないか。
「文句を言われましても。考えもなしに、人類を増やし貧富の差を拡大させた、あなた方に言われたくはありません。お互い様です」
畜生。私はどうなるんだ。地獄に堕ちるのか。
「いえ。階段を下ってけば地獄でしたが、あなたの場合は階段から落ちたので、天国にも地獄にも行けません。そのまま、地上にお戻りください」
あまりにも一方的だ。階段から落ちただけで、地上に落とされるとは。
私は恐ろしくて下を見ることはできなかった。死んでいるとはいえ、落ちていくという感覚は嫌なものだ。身体が溶けていくようで。砕けるようで。
分厚い雲を突き抜け、私の目の前には見慣れた町の光景が映った。
そうだ。ここは、私が死んだ場所。私は自分が死んだ場所に戻ってきたのか。
全ては一瞬だった。町の光景だと理解した直後、私はアスファルトの地面にその身体を叩きつけられた。死んでいるのは痛みはなかった。疲れはあるのに、痛みはないとは都合がいい身体だ。
「なんということだ。地上に戻されるなんて・・・」
私は打ちつけられた身体を起こした。死ぬということはないが、無傷という訳でもなさそうだった。私の身体は叩きつけられた衝撃で、一部が四散していた。ビルの窓ガラスにうっすらと映る自分の姿を見て愕然とした。死んだ直後はキレイだった身体も今となっては、事故にあった自分の身体と同じ状態となっていた。
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