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「十夜…………」
姫香は、息を呑んだ。
何を言っても無駄だと、冷たい殺意を宿した十夜の瞳が告げていた。
すらりとした長身の肢体からも、凄まじい殺気が迸っている。
「おまえに闘う気がなくても、俺はおまえを斬る。俺はあの頃の俺とは違う。無抵抗のまま斬られたいのか?俺と闘え、姫香」
殺意に満ちた瞳で姫香を射すくめたまま、十夜は再度促した。
姫香は小さく首をふって、刀を鞘に納めた。
十夜が、驚いたように目を見開く。
「何をしているっ!?一方的に殺されたいのか!?」
深い哀しみをたたえた瞳で、姫香は十夜をみつめた。
「できないよ……十夜と闘うなんて…………」
新選組の3番隊長、斎籐一も言っていたが、真剣の斬りあいにおいて、相手がこう動いたからこう動こうなどと、およそ考えられるものではない。
無念無想、体が勝手に動くのだ。
相手の斬撃を受け流すだけのつもりが、返す刃で十夜を斬ってしまうかも知れない。
十夜を斬るなんて、十夜と闘うなんて、姫香には絶対に耐えられなかった。
「ふっ、たわけたことを……!だから、おまえは甘いと言うんだ。おまえに闘う意志がなくても容赦はしない。あの世で己れの甘さを悔いるがいい!」
切れ長の瞳に激しい憎悪を燃やして、十夜は地を蹴った。
白刃が、唸りをあげて姫香に迫る。
十夜は白狐族の剣士の中でも十指に入る遣い手、斬撃が速すぎて、かわせない。
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