邪悪な黒狐族との闘い

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食欲をそそるいい匂いが、姫香の鼻孔をくすぐる。 ちょうど、小腹の空く頃だ。 姫香は、肉まんに目がない。 (ふわぁ……肉まん!!) 姫香はひったくるように紙袋を受け取り、湯気の立つ肉まんをふーふー息を吹きかけながら食べ始めた。 紗雪のような例外を除いて、妖狐は総じて猫舌だ。 (あつっ……でも、おいしいよう❤しあわせ❤) 片手に紙袋を抱え、姫香は夢中になって肉まんを頬ばった。 ふと気がついて、紗雪にも紙袋を差し出す。 「はひ、はふきにもはげる。はふきもらへて(はい、紗雪にもあげる。紗雪も食べて)」 「っていうか、俺が買ってきたんだし」 シビアな表情でつっこんで、紗雪も肉まんをひとつ手に取る。 車道を行き交う車のテールランプを眺めながら、ふたりは肉まんに舌鼓を打った。 熱々の肉まんが、体と心をほっこりほぐしてくれた。 いつの間にか、涙はとまっていた。 「……そう言えばさぁ……」 3つめの肉まんをかじりながら、姫香はふと昔のことを思い出した。 「初めて紗雪に逢った日も、肉まん食べたよね、ふたりで……」 「あ?そうだっけ?」 紗雪は、すっかり忘れているようだった。 「忘れたの!?僕にあんな酷いことしといて!」 肉まんにかぶりついたまま、姫香は上目遣いに紗雪を見た。 長い睫越しに、促すように紗雪をじっとみつめる。 「あ?何かしたか、俺?」 紗雪は、キョトンと姫香をみつめ返した。 (か、完全に忘れてる……) 恨みがましい眼差しで、姫香はじと~っと紗雪をみつめた。 紗雪は、竹を割ったような性格だ。 サバサバしていて、過ぎたことにはこだわらない。 終わったことはすぐ忘れるので、人を恨んだり憎んだりすることもなかった。 そんな紗雪に、9年も前のことを覚えていろという方が、どだい無理な話だった。
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