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「ぴぎゃあっ!!」
痛みとショックに、姫香は涙目になって飛びあがった。
「ふ、ふえっ……!?」
唇をわなわな震わせて、潤んだ瞳で紗雪を見ると、紗雪はきつい眼差しでじろりと姫香をねめつけた。
「べたべたさわんじゃねぇよ、このタコッ!!」
(ふえっ……この人、怖い……!!)
まだ5才だった姫香は、火がついたように泣き出した。
泣き声を聞きつけて、剣狐がやってきて、ふたりを自分の部屋に連れていき、肉まんと烏龍茶をご馳走してくれたのだった……………
「おまえ、よく覚えてるな、そんなくだらねぇこと」
姫香が話し終えると、紗雪は腕組みして、呆れたように姫香をじろりと見た。
「だって、シッポを思い切り引っ張られたんだよ?痛くて死ぬかと思った」
「ぷっ、オーバーな奴」
紗雪は、おかしそうに笑っている。
「それだけじゃないよ。毎晩寝る前に怖い話してさ。僕、怖くてトイレに行けなかったんだから!」
「だって、おもしれぇんだもん。おまえ、マジでビビるからよ」
「ひっどぉい!!紗雪の意地悪っ!!」
姫香はぷんとむくれて、上目遣いに紗雪を睨んだ。
「腹ごしらえもしたし、行くぞ」
紗雪はあさっての方を向いて、大きく伸びをした。
「……今日はもう帰りたいな……」
先ほどの十夜のことがまた胸をよぎり、姫香は長い睫を伏せてぽつりとつぶやいた。
紗雪がふりむいて、鋭い眼差しで姫香を射すくめる。
「甘ったれてんじゃねぇよ。今夜は俺が闘い方を伝授してやる」
「うぅ……紗雪の鬼……!!」
路上に置いたラベンダー色の紙袋を持って、姫香は渋々紗雪に従った。
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