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4時間後。
姫香と紗雪は、マンションへ帰るべく、並んで電車に揺られていた。
いつも以上に積極的に歩き回り、黒狐族と何度も闘って、くたくただった。
だが、黒狐族とずっと闘っていたので、十夜のことを考えずに済んだ。
(あれ……?もしかして、そのために紗雪は僕を……?)
姫香は、隣に座る紗雪をちらりと見た。
切れ長の鋭い瞳を床に落として、紗雪は何事かじっと考えこんでいた。
少女めいた可憐な美貌という点では紗雪も姫香と同じだが、眼差しがきつく、いつも生意気そうな表情を浮かべているので、醸し出す雰囲気がまるで違っていた。
(紗雪も十夜のことを考えているのかな……)
憎しみをたぎらせた十夜の瞳を思い出し、姫香は窓の外に視線を馳せて、紗雪に気(け)どられぬようそっとため息をついた。
中途半端な時間帯のため、電車は空いていた。
向かいの席に座った女子大生らしきふたり連れが、紗雪と姫香をちらちら見ながら、テンション高く何事かささやきあっていた。
本人たちは声をひそめているつもりらしいが、興奮気味にまくしたてているので、時折会話が洩れ聞こえてくる。
「ねぇ、あのふたり、おいしくない?」
「超綺麗な子と可愛い年下くん。理想のカプだよね」
「でも、ふたりとも受っぽくない?」
「うん、もう少し年上の俺さまイケメンがいるといいんだけど……」
「あ、それいい!!で、あの綺麗な狐くんが無理やりやられちゃって……」
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