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「言わねぇよ、凛には……」
紗雪は、あっさり頷いた。
「ホント!?ありがと!!」
姫香はホッとして、思わず笑顔になった。
紗雪はあさっての方を向いて、柔らかな栗色の髪をくしゃっとすきあげた。
「俺も、確かめてぇことがあるしな」
「十夜がなぜ〈黒〉に寝返ったかってこと?」
再び心が重く沈んでいくのを感じながら、姫香は訊いた。
「あいつは仲間を裏切るような奴じゃねぇ」
闇の彼方に視線を馳せて、紗雪は独り言のようにつぶやいた。
「理由もなく人を憎むような奴でもな」
「……何か裏があるってこと?」
憂いに沈んだ表情で、姫香は紗雪を見あげた。
不安な心を映して、シッポが小刻みに左右に揺れている。
十夜が何かトラブルに巻き込まれているかも知れないと思うと、胸が痛んだ。
今にも泣き出しそうな姫香の表情に気づいたのか、紗雪がぐしゃぐしゃと姫香の髪をすき乱して明るい声を出した。
「シケたツラすんじゃねぇよ。心配すんな。俺が何とかするからよ」
「紗雪……」
胸が熱くなって、姫香は潤んだ瞳で紗雪をみつめた。
やっぱり、ここぞという時、紗雪は優しい。
「あ、ありが……ぐすっ……」
「男がメソメソすんじゃねぇよっ!今度泣いたらシッポちょん切るぞ」
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