106人が本棚に入れています
本棚に追加
「疲れたでしょう。お風呂沸いてますよ」
静音は、いたわるような眼差しをふたりに向けた。
お風呂、と聞いて、姫香は今日買った新しいシッポ用のシャンプーとコンディショナー、艶出しスプレーのことを思い出した。
薔薇の香りの商品だ。
早く試してみたい。
「おまえ、先に入ってこいよ」
紗雪が、ちらりと姫香を見た。
「うん」
こくりと頷き、姫香は自分の部屋からパジャマなどをとってきて、新商品の入った紙袋を手に浴室に向かった。
姫香の後に紗雪も入浴を済ませ、3人でコーヒーなどを飲みながらリビングでくつろいでいると、凛が帰ってきた。
時刻は、10時半になるところだった。
「お帰りなさい、凛」
静音がソファーから立ちあがり、凛にコーヒーを淹れるためにキッチンに向かった。
「おう、遅かったな、凛」
コーヒーカップをソーサーに戻して、紗雪が凛の方を見た。
ココアに息を吹きかけながら、姫香も上目遣いに凛を見た。
猫舌の姫香にあわせてあらかじめぬるめに作ってあるのだが、「ココアはふーふーして飲むもの」だと姫香は思いこんでいた。
「…………」
冴え冴えとした切れ長の瞳に険しい色を浮かべて、凛は紗雪と姫香を交互に見た。
怜悧な美貌に、深い苦悩が滲んでいる。
ただ事ならぬ凛の様子に、姫香と紗雪は顔を見あわせた。
(凛、どうしちゃったの?何かあったのかな?)
(俺が知るかよ)
そんなアイコンタクトを交わしていると、静音がコーヒーを載せたトレイを手に戻ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!