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いそいそとした足取りで、姫香は店の中に入っていった。
浮き立った心を映して、しっぽが大きく左右に揺れている。
「いらっしゃいませ~」
店内に足を踏み入れると、女性スタッフの明るい笑顔と薔薇の香りがふわりと姫香を包んだ。
姫香は、この店の常連だ。
当然、スタッフも一段と愛想がよくなる。
「今日はどういった商品をお探しでしよう?」
「う~んとね、あれとあれと……」
目をきらきらさせて商品を物色する姫香の顔は、女の子のように可愛いらしい。
雪のように白い、スベスベした肌。
長く揃った睫。
無邪気なきらめきを放つ、エメラルドグリーンの瞳。
スッと細い鼻梁と小さな薔薇色の唇が、可憐な印象を強めている。
柔らかく目もとにかかる栗色の髪に、頭部から生えた白いふわふわの狐耳。
華奢な肢体のおしりから、真っ白なふわふわのしっぽがのぞいている。
天使のようなという形容がぴったりの、愛くるしい美少年だった。
声も高いので、女の子と間違われることが多い。
14才という年齢の割にあどけなさの多分に残るその顔は、どう見ても女の子にしか見えないのだが、本人にその自覚はまるでなく、少女に間違われるたびに「え~っ!!僕のどこが女の子に見えるのーっ!!」とショックを受けていた。
春だというのに、ざっくり編みのセーターを着ている。
姫香は、寒がりなのだ。
紺色のセーターの下は、白いコットンのシャツに薄手のベスト、ジーンズの下にはしっかり70デニールのタイツをはいている。
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