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買い物を済ませて、姫香はほくほく顔で店を出た。
既に陽は西に傾き、紫色の薄闇があたりを覆いつつあった。
ジーンズのポケットから携帯を取り出し、姫香は時間を確かめた。
5時25分。
まだ、帰るには早い。
黒狐族が人間を襲う頻度が増えているので、最低でも8時頃までは巡察しないと……
(今日はどの辺に行こうかな……)
携帯をジーンズのポケットにしまいながら、姫香は少し迷った。
本当は紗雪にメールしたいけど、緊急時以外、巡察中に携帯を使用することは禁じられている。
同じ剣狐(けんこ)のもとで育ったためか、「同居人」たちの中でも、姫香は特に紗雪のことが大好きだった。
もっとも、姫香が他人を嫌うことなど、滅多にないのだが。
(決めた!今日は赤坂方面に行ってみよう)
新商品がぎっしり詰まったラベンダー色の紙袋をぎゅっと握り直して、姫香が地下鉄に乗るべく歩き出そうとした時。
たまぎる悲鳴が、夕闇を裂いた。
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