森の都

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日和は、鼻の上に何かが落ちて来た事に気づいて、目を覚ました。 長い長い夢だった。 そう思いまぶたを開いた。 目の前には、美しくそして儚く輝く星々があった。 “ここどこ?” 日和はとっさに飛び起きた。 鼻についていた赤いもみじが重力に逆らえず、ひらひらと地面に落ちた。 目に飛び込んできたのは、紅葉し色づいた木々だった。 “今は四月のはずなのに…” 日和はかなり動揺していた。 辺りを見まわすが、何が何だか分からなかった。 混乱している日和の耳が微かな音をひろった。 初めは地鳴りのような音だった。 だが、しだいに音は変わっていき、日和はとっさに木陰へ避難した。 地鳴りの正体は6頭ばかりの馬だった。さらに、馬の上には直垂を着た若い男たちが乗っていた。 直垂の男たちは、日和の目の前を通った。 日和は安堵の息をついた。少し怖かったからだ。 しかし、油断した日和の目の前に、馬に乗った直垂の男が現れた。 もう一人いたのだ。 直垂の男は、日和をみるなり 「テルツキヒメイタリ~、テルツキヒメイタリ~」 と叫ぶ、 その声を聞き、先ほど通り過ぎた直垂の男達が戻ってきた。 テルツキヒメイタリ。 日和は、古文だと気づきとっさに訳した。 “照月姫がいた。” 馬に乗った、男達が日和を囲む。 一人が馬から降り、日和に近づいた。 「姫、探しましたぞ」 そう言うと、日和の腕を引っ張り、無理やり馬にのせた。 「人違いです。下ろしてー」 日和は何度も叫んだが、言葉自体が通じていなかった。 しばらくは叫んでいたが、これ以上抵抗しても無駄なことに気づき黙り込んだ。 周りを見ると、教科書や論文で見てきた光景が広がっていた。 平安時代の都、街並みだった。 その瞬間、脳裏にあの白猫が浮かぶ。 夢じゃなかった。 日和は受け入れたく無い現状を受け入れるしかなかった。 平安時代に来てしまったのだ。 ●直垂(ちょくすい) 平安時代後期に武士が着用していた服。
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