37人が本棚に入れています
本棚に追加
日和は、とりあえず話しを真面目に聞いてもらえるチャンスをうかがっていた。
しばらくすると、舞花が
「今宵は、陰陽師の
安倍春明(あべのはるあきら)殿がお見えになっております。いかがいたしますか?」
とまじまじと日和を見ていった。
目で“行け"と訴えている。
「わかりました。参りましょう。」日和は大学での知識を活かして、舞花をキョトンとさせない言葉で返事をした。
御簾を出ると、舞花が寝殿まで案内した。
簀子を通る日和の耳に女御たちが何やらひそひそと話しているのが聞こえた。
よく聞くと、
照月姫が鬼に取り憑かれ、訳のわからない言葉を発し、変な服装だった。と話している。
「舞花殿は私が恐ろしくないのですか」
女御たちの噂話を聞いて、 日和は鬼かもしれない自分をちっとも怖がらない舞花を不思議におもった。
「照月姫を信じておりますゆえ、鬼など取り憑くお方ではないと。
それから…」
一度話しをやめると、辺りをみまわした。壺庭の周辺に誰もいない事を確認すると、そっと日和に耳うちした。
「あなた様が、照月姫ではないことも。」
日和は目を大きく見開いた。
「なぜ?」
舞花の目を見て問う。
「照月姫とは、十三年同じ時を過ごした仲ゆえ」それだけ言うとまた歩きだした。
そのあと、寝殿までは二人とも終始無言だった。
だが、日和は考え事ばかりしていた。舞花はなぜ、自分が照月姫ではないと知っているのにここまでよくしてくれるのか。本当の照月姫はどこに行ってしまったのか。
そんな事を考えてるうちに寝殿についてしまった。
●壺庭(つぼにわ)
屋敷の中に作られた中庭のこと。
最初のコメントを投稿しよう!