森の都

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長い時間沈黙が続くー 春明は、ずっと日和の手のひらにのっている紅葉を眺めている。 最初に話をきりだしたのは、日和だった。 「あの…春明殿、私が屋敷につれられたことを見た方とは いったいどのようなお方ですか。 あの時、あの場所には誰一人いなかったかと…」 春明は、日和に視線を移して言った。 「春明でよいぞ、日和。 あまり、かしこまらずともよい。 それに、教えてくれた者はすぐそこにおるでないか。」 日和は、春明の最後の一言にゾッとした。 この部屋は、二人だけのはず。 どういう事か春明に聞こうとしたとき、舞花が戻ってきた。 「支度が整いました。牛車にのせてございます。」 「世話になった、舞花どの。 さぁ、行こうか日和。」 冷たい声で、優しく日和に呼びかけた。 「はい。」 牛車は二台用意してあった。 二人はそれぞれ別々に乗った。 日和が牛車に乗ると、後ろから 「今宵、春明様の屋敷まで、ご案内いたします、白菊(しらぎく)と申します。」 黄緑色の単衣を着き、凛とした女性が挨拶をした。 牛車がガタンガタンと動きだした。速度はかなりゆっくりだった。 ふぅーーー。 日和の緊張の糸がとけた。本当に夢ではないか、自分の頬をつねってみる。 「痛っ!」 やはり、夢ではない。 一体なぜ、春明は何が目的で自分をこの時代に連れてきたのか。 春明という男はなにものなのか。 日和は考えても、わかるはずのないことを考えているうちに眠りにおちた。 ●牛車(ぎっしゃ) 牛を使った移動手段で、後ろに人が乗るための車がついている。
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