37人が本棚に入れています
本棚に追加
樒は何を言っているのだろうか。
自分は実は蜜蜂で、春明によって、人の姿に変えられたと言っているが、全く日和には理解できなかった。
何かの冗談だろうか…
だが、樒は真剣に話している。
日和はまたも、この時代についていけなかった。
確かに、大学でも平安時代の世の中の考えの勉強で、この時代には鬼や式神、陰陽師の存在があることは知っていたが、
いざ、受け入れるには少し無理があった。
そうこうしているうちに、北の対に着いた。北の対は日和が想像していたより、広かった。
御簾と格子(こうし)でつくられた壁、燈台(どうだい)に灯された明かり。
薄暗く、やわらかな光に包まれた部屋は日和をほっとさせた。
「お気に召されましたか。」
御簾に触れる日和を見て、樒が声をかけた。
「この部屋、私が本当に使っていいの?」
今度は座り込み、燈台を眺めながら聞いた。
「お気に召されなら、なによりですわ。」
樒が本当に嬉しそうに微笑むのをみて、樒が式神だというのもどうでもよくなった。
「春明にお礼を言わなきゃ。今どこにいるの?」
日和が樒に問う。
「春明様は、只今書物をご覧になっておいでです。しばらく、誰も通すなとのことです。」
樒は申し訳なさそうに言った。
「そう、じゃあ仕方ないか。明日にしよ。」
日和はそう言うと樒に微笑んだ。
「他に何もなければ私はこれにて
」
と言い、部屋から出て行った。
一人になった日和はしばらく座っていたが、やがて簀子に出てみた。
“この時代はゆっくりと時間が流れてる”
そう呟きながら日和は背伸びをした。外には様々な木々や花があり、ぼんやりとした月明かりに照らされていた。
日和は簀子に座り、しばらく景色を眺めることにした。
こんなに、自然の美しさにふれたのは何年振りか…
日和の幼い頃に住んでた家には、すぐ近くに畑や山、小川があった。
そうなると、遊び相手は自然だった。山の木々を登ったり、葉や木の実を拾ったり、小川のあらゆる生き物を捕まえてみたり…
それから、日和には幼い頃から不思議な力があった。
最初のコメントを投稿しよう!