月と呪

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「つまりは、全ての名前が呪なの?」 日和が問う。 「まぁ、基本はそうなる。 だが、相手に呪法をつかうとなるとまた話は別だ。 呪法をかける相手によって、効果的な呪を理解してかけなければならないのだ。」 春明はそう言うと、月を眺めながら酒を一気に飲んだ。 すかさず、単姿の一人がお酌する。 御猪口の中の月を見ながら、春明は話を続けた。 「例えば、日和の持っているその瓶の中の葉の粉にも、霊が宿っている。 そこに呪法をかけてやると式神になるのだ。」 日和は葉の粉を見ながら、ズミの木の白い花を思い出していた。 そして、突然何を思いついたのか無邪気な子供のようなキラキラした目になり、春明を見て言った。 「ねぇ、春明様。ここは一つこのズミの葉を式神にしてくださいな。」 「出来ぬ。」 春明は即答した。 「私はズミの木とまたお話がしたいの。お願い春明様。」 日和は頭を下げた。 「無理なものは無理だ。」 春明はがんとして譲らない。 『日和。春明が最初に申したように、そのズミの葉にはそなたが知らず知らずのうちにかけた、強い呪がかかっておるのだ。』 二人の様子をみかねた時道が日和に説明をしはじめた。 『春明なら無理矢理でも、式神にすることは出来るが そのかわりに、ズミの葉が持つものを奪いかねない。 そなたとの記憶も奪われかねないのだ。 春明はそれで、出来ぬと言っておるのだ。 呪をかけるということは、相手を支配するということでもあるのだ。 ズミの葉を式にするなら、 日和。そなたが自分で呪をかけるのが一番なのだ。』 時道は日和を真っ直ぐ見て言った。 「でも私は呪のかけかたも知らないし…」 日和は困ったようにいう。 『では、誰かに教えてもらわないとな。』 時道はそう言って、春明をちらっと見た。 日和は時道の合図に顔がパァと輝いた。そして、春明を見るなり 「春明殿。どうか私に式神の作り方を教えてください。 お願いします。」 と、日和は一生懸命に頼み込んだ。 春明は、黙ったまま月を見ていた。
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