猫とニート

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時は過ぎ、並木道には 桜が咲き出した。 日和は、その並木道を パンの入った紙袋を抱えて帰っていた。 神社の角を曲がると ふと、あの白猫の事を思い出した。 いるわけないと おもいながらも、淡い期待が 日和に石壁と神木の間をのぞかせた。 「やっぱり、いないかぁ」 そうつぶやき、 その場を立ち去ろうとした時 神木の根本でなにかが光った。 日和は、幅の狭いすき間を通り抜け、光ったあたりにいった。 すると、そこには透き通った深緑色の輪っかがおちていた。 日和は、しばらく観察したあと、 「あぁ!」 と急に歓喜の声をあげると深緑色の首輪を持ち上げた。 急いで道にでると、太陽の光にあてた。 キラキラ光る輪っかの正体は、 そう、あの時の白猫がしていたものだった。 日和は、もう一度あの白猫に会える確信が持てたことが嬉しくて、 家まで鼻歌を歌いながら帰った。 その夜、日和は風呂上がりの牛乳をコップ一杯飲み干すと、明日の仕事の為の準備を始めた。財布を取ろうとカバンを開けた時だった。 何やらカバンの中で月光を受け反射している。日和はゆっくりと、反射しているものを取りだした。 触ったことのある素材の感覚に、嫌な予感がした。 月に照らされ反射する深緑色の輪っか。 白猫の首輪だった。 日和の心は一瞬にして、罪悪感に埋め尽くされた。 だが、罪悪感がそう長く続くことは、なかった。 「白猫ちゃんに返しに行けばいのよ!」 日和は、声に出して そう自分に言い聞かせた。 首輪は、まるで月光がさも自分の光だと主張するように、キラキラと光ってみせた。そんな首輪を日和はときおりきれいとつぶやきながら眠りにつくまで眺めていた。
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