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職場に着くと、先輩の鞍安 葉月(くらやす はづき)が眉間にシワを寄せ、近づいてきた。
「日和ちゃん、聞いて」
「どうしたんですか?花雅先輩。」
葉月は、4ヶ月前に結婚したばかりで、周りの従業員はみな旧姓である花雅(はなみやび)と呼んでいた。
「また、あのおじさんがきたのよ」
「えー、また来たんですか。」
日和は思わず嫌な顔をした。
「今度は、注文の繰り返しをするなって」
葉月は眉間にシワを寄せて言った。
「そんなこと、言われても会社の方針上の事だし」
日和は怒りを必死にこらえる。
ここ数日は、おじさんクレーマーがこのレストランに出没しており、料理や接客などに怒鳴りながらクレームをつけては、帰っていくのだった。
「とりあえず、本社に電話したら、そのお客様だけ注文の繰り返しはしないようにって」
「わかりました。また、どうせ怒鳴りにくるでしょうけど」
葉月は、フッと皮肉笑いをし、日和の肩をポンと叩いて、呼び出しのあったテーブルへ行った。
日和には、クレーマーは従業員を人ではなく物のように思っていると、確信していた。金を払ってやってるんだ。というのが目に見えてわかる。
しかし、実際は客が来ようが、来まいが給料は同じなのだ。
ここでいかにサービスが出来るかは従業員のポリシーでなりたっていた。
そのサービスポリシーで最も優れているのが葉月だった。日和は、葉月の接客が好きだった。笑顔は素敵で心使いも完璧なのだ。日和の最終目的は葉月のような女性になることだった。
葉月の接客を観察していると、呼び出しボタンが押された。日和は急いて テーブルへ向かった。
今日もまた、忙しいいつも通りの日だった。
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