猫とニート

5/6
前へ
/232ページ
次へ
職場に着くと、先輩の鞍安 葉月(くらやす はづき)が眉間にシワを寄せ、近づいてきた。 「日和ちゃん、聞いて」 「どうしたんですか?花雅先輩。」 葉月は、4ヶ月前に結婚したばかりで、周りの従業員はみな旧姓である花雅(はなみやび)と呼んでいた。 「また、あのおじさんがきたのよ」 「えー、また来たんですか。」 日和は思わず嫌な顔をした。 「今度は、注文の繰り返しをするなって」 葉月は眉間にシワを寄せて言った。 「そんなこと、言われても会社の方針上の事だし」 日和は怒りを必死にこらえる。 ここ数日は、おじさんクレーマーがこのレストランに出没しており、料理や接客などに怒鳴りながらクレームをつけては、帰っていくのだった。 「とりあえず、本社に電話したら、そのお客様だけ注文の繰り返しはしないようにって」 「わかりました。また、どうせ怒鳴りにくるでしょうけど」 葉月は、フッと皮肉笑いをし、日和の肩をポンと叩いて、呼び出しのあったテーブルへ行った。 日和には、クレーマーは従業員を人ではなく物のように思っていると、確信していた。金を払ってやってるんだ。というのが目に見えてわかる。 しかし、実際は客が来ようが、来まいが給料は同じなのだ。 ここでいかにサービスが出来るかは従業員のポリシーでなりたっていた。 そのサービスポリシーで最も優れているのが葉月だった。日和は、葉月の接客が好きだった。笑顔は素敵で心使いも完璧なのだ。日和の最終目的は葉月のような女性になることだった。 葉月の接客を観察していると、呼び出しボタンが押された。日和は急いて テーブルへ向かった。 今日もまた、忙しいいつも通りの日だった。
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加