猫とニート

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「お疲れ様~」 「お疲れ様です」 夕方の5時になり、日和は帰り支度が整えると、職場の出入口である茶色くて、重いドアを開けた。 外にでたとたんに、今日の仕事が終わったことを実感した。 並木道まで葉月と一緒に歩くと、双方、家路へついた。 日和は、しばらく歩くといつものパン屋さんへ入り、焼きたてパンを買った。 並木道には、桜があと一息で満開というところだった。 春の夕暮れの光を受け、桜は淡い金色に輝いている。 太陽は並木道全ての桜を自分の暖かい色に染め上げ、皆に夕暮れを知らせている。 その美しさは、散歩している人々を足止めするほどだ。 だが、やはり日和は暖かく美しい桜に目もくれない。 ただ、パンをかじりながら、今日の出来事を考えていた。 やがて、いつもの神社にきた。 この日は、なぜか神社の鳥居に目がいった。 見事な朱色に、暖かな日差し。 2・3秒眺めると日和は、白猫の事を思い出した。 日和は、そっとカバンの中に手をいれ、あの首輪があることを確認した。 角を曲り、神社の横を通りすぎ、石壁と神木の間を覗き込んだ。 その瞬間、日和は目を見開いた。 神木の陰で、あの白く美しい猫が座ったままこちらを見ていた。 日和は、白猫を驚かさない様に ゆっくりとしゃがんだ。 しゃがんだのを確認した白猫は軽快に立ち上がると こちらに歩いてきた。 白猫が一歩一歩近づくにつれ、建物のすき間から差し込む暖かな光りによって、美しい白き毛は、やんわりとした金色に輝いた。 そして、日和の真正面まで来ると、日和を見つめながら音もなく座った。 白猫は、澄んだ瞳で日和を見つめ続けている。 日和は、とっさに首輪のことを思い出し、カバンから取り出した。 白猫は、まだ見つめ続けている。 日和は、くさび形になっている首輪のつなぎ目を外した。 首輪は、寄木細工のような構造をしていた。 そして、白猫の首に首輪をもっていき、カチッと首輪をはめた。 白猫は、日和に座ったまま一礼すると、右の前足をそっと日和の足の上にのせた。 そのあと、白猫は尻尾を地面に三回叩きつけた。 その瞬間、風がザワザワと騒ぎ出したかと思えば、白猫の首輪から白く眩い光が辺り一帯を飲みこんだ。
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