田舎村の喜び

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秋風が身に染みる10月も半ば。 ここは、清流と高い山々に囲まれた糸井村。 その糸井村では何十年か振りに待望の赤ん坊が生まれた。 『オギャー!!』 元気のよい赤ん坊である 父の喜三郎は『名前は何にするかな』 母のお富は『幸せにすくすく育つと言う意味で「幸太郎」はどうかしら?』 3年前に妻を亡くし、今年70歳を迎えた祖父は『滝ノ助はどうじゃ。ワシもお前が生まれたときは喜三郎か滝ノ助にするかで迷ったもんじゃよ。』 『そりゃ初耳だな~。よし、親父が考えた滝ノ助にしよう。いい名前だな、うん。』 『私もそれがいいと思います。』 夫婦の意見が揃ったところで、赤ん坊の滝ノ助はお腹が空いたのか母の顔をジーッと見つめた。 『ほぉ、孫と言うのはまさに目に入れても痛くないのハハハ…』 祖父は横で滝ノ助のあまりのかわいさに目を奪われていた。 それから何日か後、家には沢山の村人が訪れた。 みな口々にかわいいと言い、かわりばんこに滝ノ助を抱っこし合った。 滝ノ助は人見知りがなく、家族の愛に包まれてすくすく成長していったのである。 あれから5年。5歳を迎えた滝ノ助は人一倍やんちゃ坊主になっていた。夏は辺りの木々に捕まっては虫取りをしたり、夜は屋根を登っては満点の星空を眺めていた。 しかしある時、滝ノ助の身に悲劇というのにふさわしい出来事が起こったのである。
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