第1話 竹内真帆編①

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 ……信じられない。  このワンピースは、別れる前にトキと一緒に買い物に行って手に入れたものだ。あのとき、「無理すんなよ」ってトキに言われて、物凄くショックを受けたっけ。今の姿を見て、同じセリフなんか絶対言えないでしょ。  ……そうよ、せっかくこんなに綺麗な姿になったのに、利用しない手はないわ。  私はパールのネックレスとブレスレットを身に着け、財布や小さな化粧ポーチを入れるだけの黒いバッグを片手に、久しぶりに外へ出た。  何故だろう。きれいになっただけで、何でもできる気がするのは。  相変わらず、自分の足音も、外で喚き散らしているはずのセミの声も、自分の横を通過していくトラックの走る音も、聞こえない。  何も聞こえない。  それでもいい。
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