第1話 竹内真帆編①

3/38
前へ
/38ページ
次へ
◇ 「別れよう」  そんなありきたりな台詞で、トキはあっさりと去って行った。  そこから今日で、何日目だっけ。  カーテンを閉め切っているため、1日中薄暗い部屋。微かにこぼれる光の量で、ようやく朝と夜の区別がつく。けれども少しも意識を払っていないので、これで何回目の朝なのか分からない。  ……いい加減にしないと。  頭では分かってる。  何もしなくても、気が付けば増えている床に落ちた髪の毛。ぐねぐねまとまって、埃と一緒に転がっている。拾う気にもならない。  汗でねとねとした両腕は青白く、手首にはくっきりと骨が浮かび上がっている。  かぴかぴに傷んだ、伸ばしっぱなしの茶色い髪の毛。ずっと大事に伸ばしてきた。トキがロングヘアが好きだったから。8年間、1度もショートにしたことがなかった。切らなくていいように、シャンプーやトリートメントに気を使い、月に1度は必ず美容院にも通っていたのに。  今や、そのお金すらない。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1894人が本棚に入れています
本棚に追加