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 しかし、通された3001号室には、既に誰かがいる気配がした。 「――誰? 誰かいるの?」 「……今夜、あなたが接待なさる方ですよ。」  亜希が立ち止まる。 「おっと……。」  高津は出入口を塞ぐように立つ。 「……高津さんが相手じゃないの?」  亜希は高津を振り仰ぐ。 「……ああ。違うよ?」  高津はにっこりと微笑む。  蛇ににらまれた蛙のように、亜希は身動きが出来なくなった。 「……ほら、奥に入って。」  高津は亜希の背中を押すと部屋に押し込む。  亜希は二、三歩後退りした。 「……往生際の悪い人だ。『守りたいもの』があるんでしょう?」  亜希は何が起きたか咄嗟にはわからなかった。  気付いたら「パンッ」という渇いた音とともに痛みに襲われ、床に倒れていた。 「――ほら、立って。亜希。」  高津には、もう微笑みは無い。 「……来ないで。」  亜希は腰が砕けて立てずにいた。  四つんばいのまま逃げ惑う。  高津が怖い。 「……高津くん、その子かい?」 「ええ。お気に召せば良いのですが。」  奥の部屋のソファーから立ち上がったのは、四十絡みの男だ。  前島はいやらしい笑みを浮かべ、値踏みをするみたいに眺めてくる。  亜希の怯えた様子は前島にとって興をそそられるものだった。  物陰に腕を伸ばすような格好の前島の影が亜希に伸びてくる。  ――真っ黒な腕。 「高津さんッ!」  その様子を冷ややかな目で見下ろす。 「……いやあっ!」  前島は亜希の髪を掴み、上を向かせると猿轡を嵌めた。 「う……っ?!」 「暴れると、舌を噛み切るからね。」  亜希は抗議の声をあげたが、悲鳴にすらならない。 「活きが良いみたいだな。」  手足をばたつかせても、巧みに腕が伸びてきて手際よく捕らえられ組み敷かれる。 「怖いか? お嬢ちゃん。すぐに気持ち良くしてやるからな。」  ――昏い瞳。  前島の言葉より、亜希は高津の真っ黒な瞳を前に体が硬直していくのを感じた。 「うーっ!!」  前島の荒い吐息が耳にかかる。  首を横に振って抵抗しても、今度は荒縄で拘束されていく。  そして、高津は会釈を交わす程度の気軽さで亜希に淡々と話してきた。 「――亜希。君の守りたいものを壊されたくないなら、どうするべきか分かるだろう?」  亜希の頭の中は「怖い」という思いが、滲むように広がっていく。
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