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(――格好良い。)
すぐ近くに立った高津は背が高く、まるでショーモデルみたいに、質の良い仕立てのスーツを着熟している。
「あなたと少し話がしたくて……。お忙しいところ申し訳ない。」
「いえ、お気になさらないで下さい。」
久保に「一人で会うな」と言われた事なんてすっかり忘れて、亜希はにこにこと応対する。
しかし、それも致し方ない事だった。
高津には不思議と人を引き付けるような魅力がある。
そんな彼に微笑まれたら、亜希で無くとも、誰もが微笑み返してしまうだろう。
「立ち話も何ですから、中へどうぞ。」
「……お邪魔します。」
引き戸を開けて、カウンセラー室へと招き入れる。
「心、落ち着きますね。」
ふんわりと柔らかな花の香りに包まれる。
「――いい香りだ。」
「アロマテラピーも使うものですから。」
そして、高津に近くの席を案内する。
彼が椅子に腰掛ける姿は、それだけで「絵」になる。
(……こういう人もいるんだ。)
ひとつひとつの立ち居振る舞いが、綺麗で人を惹き付ける。
その最も凄いところは、それを本人が意識していない点だった。
だから、その動きに気取った雰囲気が出ない。
亜希は部屋の奥に置かれたポットの前に行くと、インスタントコーヒーの包みを開けた。
コポコポという音と共に、コーヒーの良い香りが立ち上る。
高津はしばらく黙ってその様子を眺めていたが、不意にその和やかな雰囲気を打ち破るように口を利いた。
「ところで、進藤先生は久保先生とお付き合いなさってるんですか?」
唐突な問いに動揺して、角砂糖を取り落とす。
そして、高津の方に振り返ると、目を見開いたまま固まった。
「――正直な方ですね。」
苦笑する高津の言葉にハッと我に返る。
「……いや、あの!」
「違うんですか?」
「……違わないです。」
顔を真っ赤にし、口を尖らせて亜希が気まずそうに答えるから、高津は目を細めて流麗な笑みを浮かべた。
「『違う』と言いたいなら、そんな表情をしてはいけませんよ? もっと上手に振る舞わないと。」
「あの、この事は……。」
「別に誰にも言いませんよ。」
恥ずかしそうに俯く亜希に、高津はくすりと笑みを洩らす。
そして、少し残念そうにため息を一つ吐いた。
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