第1話

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「最初に言っておくとね、あたしの踊りに音楽は必要ないの。正確に言えば意図的にこちら側から音楽をかける必要がないの。言ってる意味分かる?」   さっぱりでした。 あと、この女の人は休むということ知らないのでしょうか。 会ってからすでに十数分はたちますが、おどりを止める気配がまったくしません。 そう言えば昨日もずっとおどっていました。 四六時中おどっていなければいけない理由でもあるのでしょうか。 いずれにせよ、なぞです。 「ふむ……そうね、君、左胸に手を当ててごらんなさい」  ぼくは言われたとおりにしました。 すると、当たり前ですが、心ぞうの音が聞こえてきました。 「心臓の音が聞こえるわね」 「はい」 「その心臓の音は君が意図して流しているの?」 「ちがいます。かってに流れています」 「そうよね、心臓の音なんて自分の預かり知らぬところに住んでいる小人が鐘を叩いているようなものよね」  女の人はそこで一拍おき、 「つまり、そういうこと」  と結びました。え? 「あたしたちが踊るための音楽はあたしたちが用意するんじゃないの。どこかの誰かが流している音楽を聴き取って、そのリズムに身を委ねて体を動かすの」 「ちなみに今おどっているおどりは何の音楽に合わせているんですか」 「今は深海をひっそりと這うタコの動きに合わせているわ」   ぼくはいよいよ混乱してきました。
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