第1話

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ぼくにはその意味がよく分かりませんでした。 大人がよく使うヒユなのかもしれません。   それにしても、その女の人はとてもとてもきれいでした。 言っては悪いですが、ぼくのお母さんとは『月とすっぽん』くらいちがいがあります。 洋服は黒い布きれを頭から被っているだけのようでくつもはいていませんでしたが、 それでもその女の人の姿には気品というものがただよっていました。 とんがり帽子とつえがあれば立派な“マジョ”に見えるでしょう。 ウェーブのかかった長いブロンドのかみもマジョ的あやしさをかもし出しているように思えました。 「おどり、上手ですね」 「本当に? お世辞でも嬉しいわ、ありがとう」   ぼくは決しておせじを言ったつもりではなかったので、そう思われたのがちょっとだけ悲しかったです。 ぼくは女の人におせじが言えるほどませてなんかいません。 「ぼくも一緒におどっていいですか」   思いつきでそう訊いてみると、マジョは腕を組んでうーん、と考えこみました。 でも、足はメリハリのきいたリズムに従って動いていました。 考えごとをしながらでもおどれるなんてカッコイイ! と思いました。 「踊ってもいいけれどね、今日はまだダメ。一晩じっくり考えて、それでもまだ踊りたいと決意したならあたしのところまでいらっしゃい。 時間は今と同じ時間ね。いい、じっくりと考えるのよ。 あたしと踊るということが意味するのは、『踊ることだけに没頭する』ということだからね。 何かに未練が残りそうなら君は明日ここに来てはいけないわよ」
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