第1話

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アメリカに行ったのはそれから数か月たった頃。 最初は恋しくて、メールしていた。私が一方的に甘えていた。 でも、いつからか、どちらからか途絶えた。 あれから10年が経った。 アメリカには2年居てから、帰国した。 その間に、彼は関西に転勤した後、仕事を辞めて、実家のある九州に戻ったと風のうわさで聞いた。もう連絡を取る気はなかったし、取れる手段もなかった。 今は当然のようにあるメールアドレスも、そうなったのはアメリカから帰ってからのこと。 辿るツテは無くもなかったが、あれはあれで綺麗な思い出の箱に入いれてしまった。 その間にはそれなりに恋もして、結婚まで話も出たけれど、決断まで至らなかった。 ずっと心の奥底にある箱にしまった、キラキラした思い出。 思い出は思い出のままになる筈だったのに。 覚えのないアドレスからメールが届いたのは昨晩。 この10年、メールアドレスを変更しなかったのはこんな期待をしていたわけじゃない。 それでも、どこかから私の連絡先を見つけてきてくれて、メールをくれた。 お互いに10年経って、自分は三十路も後半に入り、彼も勿論40を超えている。 ピンクのクマはいない分、文言はいつもより短く、そっけない。でも、前からそうだった。 遊びに行きますか。 時間通りに開いたドアを振り向くと、逆光で懐かしいシルエットの周りからあふれる光がまぶしくて、思わず目を細める。 キラキラした思い出が、閉じ込めた箱から飛び出して、再び輝きだすことなんてあるんだろうか。 わからなかったが、近づいてきたシルエットが昔と変わらない彼の笑顔に変わる頃、思い出とは別の、もっと前向きなきらめきに、私は目を細めた。 Fin
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