序章,白神山中

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つん……と鼻につく錆びた鉄のような匂い…… ここは、白神山地の奥深く その血の匂いに誘われて腹を空かせた獣たちが集まってくる。 足音もたてず集まった、十数匹の狼の群れ。血に染まった場所のより深くを目指す。 だがその中心を見たとき、素早く足を止めた。 何十人という血にまみれた人の形をしたものの中に、それは……いた。 血に染まった刀を下げた、全身が血まみれのそれ、はゆったりと立ち満月の夜空を悠然と見上げていた。 ヒト、という存在に対してかんじてしまった、恐怖という感情。その行き場のない思いに圧倒されたように狼が吠えた。 その声は闇に溶けて消えた。
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