77人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
つん……と鼻につく錆びた鉄のような匂い……
ここは、白神山地の奥深く
その血の匂いに誘われて腹を空かせた獣たちが集まってくる。
足音もたてず集まった、十数匹の狼の群れ。血に染まった場所のより深くを目指す。
だがその中心を見たとき、素早く足を止めた。
何十人という血にまみれた人の形をしたものの中に、それは……いた。
血に染まった刀を下げた、全身が血まみれのそれ、はゆったりと立ち満月の夜空を悠然と見上げていた。
ヒト、という存在に対してかんじてしまった、恐怖という感情。その行き場のない思いに圧倒されたように狼が吠えた。
その声は闇に溶けて消えた。
最初のコメントを投稿しよう!