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「は? 私が住んでいた場所のことが気になる?
支部長、そんなくだらないこと考える暇があったら、まず仕事するか、仕事するかどっちかにして下さい。ほら書類溜まってますよ」
机の上に大量に積まれた書類を指さし、不機嫌そうに俺の部下である渡蘭(ワタリ ラン)がいつも通りの悪態をつく。
本人曰く銀髪らしいが、どう見ても白い髪。よく日に焼けた褐色の肌。鍛え抜かれた体躯。もはや日本人といっていいか疑問になるほど立派な身体つきを窮屈そうにスーツに押し込めた部下は、今日も不機嫌そうに眉根を寄せる。確か、まだ二十三歳らしいが、老け顔も相まって、歳相応にはとてもじゃないが見えない。
「おっと“お蘭”その選択肢は二択のようで実は一択だな。
ほら、ここには俺を含め“訳あり”の人間が多いだろ。特にお蘭は五年前に“鬼ヶ島”から来た“鬼”なんだから」
そう、彼は“鬼ヶ島”から来た本物の“鬼”だ。“鬼”というと頭に浮かぶのは、角が生え、手には金棒。赤い体躯に黒と黄色の腰布という絵本でよくあるイメージだが、そんなイメージは彼にはありえないほど遠い。
しっかり着こなしているスーツ姿に、少しでも目つきの悪さを誤魔化そうとして失敗しているサングラスのせいで、見た感じのイメージとしたらヤクザだ。
「そうですね。普通に考えたらありえませんね。元“敵”の私が、ここで働いてるんですから、人生どうなるか分かりませんね。というわけでほら仕事してください。口じゃなくて手を動かす」
「だから話を逸らすなって、ちょっとぐらいいいだろ。ただの息抜きを兼ねた世間話だよ。“お蘭”」
「前から言ってますが、その呼び方腹立つんでやめてもらっていいですか?後、サボらないで手を動かして下さい」
「じゃあ交渉だ。俺に仕事をさせたかったら話せ」
それを聞いて、どこからどう見ても不機嫌です。といった蘭の顔がある。よく考えなくても彼にはデメリットしかない。唯一のメリットといったら、さっさと話して定時で帰る時間を確保することぐらいだ。いくら俺の身辺警護が仕事だといってもまだ彼には彼の仕事が残っている。
下を向き、俺に聞こえるようにわざと深くため息を吐く。諦めた顔をした蘭は、不機嫌を体中で体現しながら口を開く。俺の勝ちだ。
「じゃあ、話しますから仕事しながら聞いて下さいね。サボったら殴りますんでそのつもりで」
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