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「ねぇ。この席の子ってさぁ、いつ来るんだろうね?」
立ち上がると同時に耳に届いた言葉。声の主である斜め前の席の子は、私の席を指差して間延びした声で言う。
「知らな~い。ずっと来ないんじゃないの?」
話しを振られた隣の席の子は毛先を弄りながら、ここにいる私を見ることもなく答えた。
「……えっ? 私はここにいるよ。毎日、来てるよ……」
震える声で必死に自分の存在を主張するけど、彼女たちの興味はすでにここにはなく、別の話題で盛り上がっていた。
胸が締め付けられ、息苦しさを感じる。私は苦しさに耐えかね、教室を飛び出した。だけど、教室を出ても疎外感は増すばかりで、息苦しさも一層増していく。
――私はここにはいない。誰も気付かない。
だけど、不思議と涙は出てこなかった。積み重なった“悲しい”という感情が限界を越えたのか、ただ胸が痛く、息苦しさで呼吸が荒くなるだけだった。
「早く、早く。屋上に――」
乱れた呼吸の合間に呪文のように呟く。それなのに、屋上への道がいつもより遠く感じられる。なぜか足が折れたみたいに痛く、うまく走れない。普段は喧騒に紛れ、耳に届かないような言葉が鮮明に聞こえてくる。
「ねぇ、この学校でさ自殺した子がいるんだって」
……自殺?
「えー、怖っ。それどこでよ」
「屋上らしいよ。そこから飛び降りたって話」
……屋上?
「うわっ、マジ? だから屋上って立入禁止なんだ」
……屋上から飛び降り自殺?
耳に届いた会話が、私の脳裏に一つの無惨な光景を映し出す。そして、いつも同じ場所にいる彼女の姿をも思い起こさせた。
「違うよね……」
浮かび上がった想像を否定するけど、なぜか苦しい胸の奥に抱いてはいけない気持ちが湧き起こってくるのも感じた。別の気持ちも湧き出てしまう。
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