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「先生白衣だ! カッコいいー!!」
「なんで白衣着てるのー?」
月曜日の五時間目。よく分からない疲労感と食後で眠気が増すその時間は地獄のようだった。高校生は授業中寝ている人も多いと中学時代の先輩から雑談をしている時に聞いてはいたが、流石に入学早々寝る度胸のある生徒はそうそういないはずだ。そんな中自分が寝るわけには行かないのだと必死に目を見開く。そんな時に限って簿記の授業をだなんて拷問の様だ。ゆったりとした足取りで教室に入って来たのは定年に程近いと予想できる白髪頭の教師・春日だ。時より面白い話を織り交ぜたり、生徒の話も良く聞いてくれる優しい教師として評判であるが、それ故授業内容が子守唄に聴こえてしまうのだ。
「(本当だ。白衣着てる)」
前の方の席にいる女子生徒数名が騒ぎ立てる中、春日は照れた表情で頭を掻きながら教壇に立つ。女子生徒の質問に春日が何かを答えていたが、琴は今がチャンスとばかりに少しだけ視線を下に向けて目を閉じた。
「それじゃあここで前回の復習をしよう。まずは前回の基本中の基本。ここにティーを書いてと……」
春日の子守唄のような優しい声が聞こえる。ああ、授業に入ったみたいだ。そろそろ目を覚まそう。真っ暗な世界を見ながら少しずつ瞼を持ち上げる。一番最初に視界に入ったのは、左半分が良く分からない経済用語で埋められている黒板だった。こんな言葉習っただろうか、とはっきりとしない意識で考えていると、春日に名前を呼ばれる。
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